第19回坊っちゃん文学賞受賞作品感想会
今や日本一のショートショートの文学賞と言っても過言ではない「坊っちゃん文学賞」。
第19回では7,026点の応募作品のなかから、6作品が受賞となりました。
Web Novel Laboでは感想会をTwitterスペースで開催し、それぞれの作品のいいところを共有しました。
その内容を一部抜粋、要約し当記事でも共有いたします。
この記事は第19回坊っちゃん文学賞受賞作品のネタバレを含みます。
未読の方はこちらから受賞作を読むことをおすすめします。
スピーカー紹介
アイスブレイク
今回の坊っちゃん文学賞は都会が強かったですね
そういえば結果発表当初は出身?在住県?が書いてありましたね
ショートショートが義務教育にでもなってるんでしょうか
ショートショート自体が都会的なものなのではないかと思いますけどね
そうなんですか?
やっぱりカタカナだから?
どゆこと?
『ジャイアントキリン群』
作:そるとばたあさん
見事な作品だと思いました。
良い点は沢山あるのですが、まず感じたのは構成がきっちりしている所です。
起承転結がはっきりしていて、それぞれに見せ場やアピールしたい事が伝わってきました。
キリンがグラウンドにいるパートは、会話のやり取りに細かいボケと突っ込みの応酬があって、読者がすいすいと読み進められるリズムが作られています。
野球の指導パートでは、指導のアイデアが次々と繰り出される。公園でピッチャーと会うシーンでは、まさかのライオンが登場して、勝った者としての厳しさを受け止める。そして決勝戦でのチームの一体感からキリンが消えていくラストのエモさまで、構成と、短い間に突っ込んでくるネタの多さが物凄かったです。
次にキャラクターが良かったです。ムードメーカーになる木元君の成長、悔しさをバネにする強豪のピッチャー、セリフは無いけど行動から思いが伝わってくるキリンヘッドと、それぞれのキャラクターに物語があると思いました。
そして、全体のリズムが良かったです。冒頭からの掛け合いもそうですが、全体を通して読者を飽きさせない、ダレさせない工夫があって素晴らしいと思いました。
例えば、前半のキリンが登場するシーンで、この学校の監督は大人だからキリンを見て不審に思いそうなんですけど、そこはあっさりと理解してもらったり、主人公がキリンの言わんとする事がわかったり、決勝戦までの描写がサクっと書かれたりして、違和感なく無駄な説明や描写を省いて、見せるべきシーンに繋げるのは、ストイックなまでだと思いました。
あと、細かい所ですが、「朝練のグラウンド」「肩を作る」「帽子のツバに手をやり感謝を伝える」などの表現に野球物としてのリアリティを感じました。
他にも良い所は沢山あると思いますが、これは坊っちゃん文学賞として一つのベンチマークになる作品だと思いました。
千吉さん、ありがとうございます!
※感想会は千吉さんから事前にいただいた感想を皮切りに進行していきます。
冒頭一行目から登場人物はキリンが現れたことをすぐに受け入れているじゃないですか。僕だったらそういう書き方はできなくて、まずは登場人物が驚くところを入れてしまう。そこに行数を使わずに、ある意味荒業ともとれますが強引に話を進めているところがいいですよね。うちの娘もその部分が好きだと言ってました(笑)
物語に余白を感じるところが良かったです。物語の前後を想像させる構成もいいですね。
この話って本当に「全部盛り」で笑いもあるし感動もあるし、色んな要素が入ってる。
……元々坊っちゃん文学賞って「青春」をテーマにした文学賞だったじゃないですか。
そうですね
まぁ今はもう「青春」も関係ない感じになっているのですが、そこを思い出させる良さがありましたよね。普通の青春じゃない、一風変わった青春もの。悪い意味じゃないんですけど、(ジャイアントキリン群は)ナンセンス系じゃないですか?(笑)
うん、ナンセンスですよね(笑)
なのに青春性があって、以前の坊っちゃん文学賞を感じさせる作品で、良かったなぁ、と。
僕は野球を全然知らないんですけど、それでもこの作品はたっぷり楽しめました。まず、それが作者さんの筆力があるからだと思いましたね。キリンのディティールもすごく細かくて、キリンの表情や仕草まで浮かんでくるようでした。読んだあとにキリンのことが好きになりそうな、あたたかい物語でした。
それと、ジャイアントキリン群が今までの作品と違うところは、オチが落語でいう「地口落ち」。つまりダジャレなんですよね。そんな作品今までなかったんじゃないですかね。
そういう意味でも目立った作品になったのかも。
『嘘つきは透明のはじまり』
作:草間小鳥子さん
この旦那の息をするように小さな嘘をつくというのが、物凄くリアリティがありました。
こういうのって、誰もが経験するのではないかと思います。夫にぶつけ切れない主人公の気持ちとか、そういうハッキリと言葉にしない心の綾が丁寧に描かれていて良かったと感じました。
それと同時に、ラストの一言でバッサリといく感じ。この、むやみに情に流されないのが、ショートショートとして一作の際立ちだと思いました。
あと、旦那が結構作中でdisられています。すぐバレる嘘をつくのもそうですが、こっそり育毛サプリを飲んでいるとか「薄っぺらな人間」とか。ただ、主人公もそれを隠そうとする夫の嘘を受け入れてしまっていて、それって夫と一緒に夫を透明化している事かな、と思ったりして。
後半でそういう情けない夫と向き合おうとするのが良かったです。
いいところがたくさんあるんですけど、ミヤが「はいはい嘘ばっかり」という言葉だけで夫と会話をするじゃないですか。
僕ら(読者)は何度も同じセリフを読まされるんですが、その同じ言葉のなかに気持ちの移ろいが見えてくるんですよね。これってとても素晴らしいシーンだと思うんですよ。日常と超常現象がなんの無理もなく一体化している。
これは草間さんの筆力でしょうね。とても素晴らしかったです。
透明になる理由も説得力がありますよね。
物語全体でリアリティがあったように思います。特に夫婦関係がリアルだと僕は思いました。ミヤの「自分にだけは本当のことを言ってほしい」という気持ちとか、ね。
基本、ショートショートって嘘ばっかりなんですよ。だけど、そのなかにリアリティがあるから面白い。この作品は今までの坊っちゃん文学賞受賞作のなかでも、一番に近いくらいにリアリティがある小説でした。
まぁ僕とにゃおっくさんは草間さんのファンじゃないですか?
そうですね(笑)
多才な方なんで、色々な可能性があるんだろうなぁ。とにかく、この作品すごく面白かったです。
おふたりも話されていますが……もちろんフィクションの話なんですけどすごくリアルだったんですね。「架空の次元にほんのちょっと自分を置いていく」って、本当にありそう。
これは現実の話なんですけど、自分のまわりでもどうでもいい嘘ばっかりつく人って本当にいるんですよ。そういう意味でも身近に感じる作品でした。
それと、終わり方が印象的でした。「ちょきん」で想像していた映像がブツリと途切れて、言葉の使い方がとてもうまいと感じました。
おばあさんがすごく活躍してましたよね。何気ないキャラかと思ったら、しっかりとした役割があった。最後にはもう重要人物になっていましたよ。完成度が高い作品です。
『空色ネイル』
作:内池陽奈さん
女子高校生を主人公にした全編が口語体で書かれていて、生き生きとした印象を受けました。
空の色が自分のネイルになるというのは、非常に楽しい発想。ネイルは綺麗にすると、手元を見た時に自分の気持ちが上がったり、自分の身体が高められた気がするので、そういうのって、空を見る感覚に近いのかなと思いました。お話が朝から始まって1日の夜に終わるというのも構成として面白かったです。
空とネイルがリンクしているギミックがあって、後半に主人公が友人とのために、自分からこのギミックを操って星空を出現させる。こういう主体的な行動によってショートショートの不思議な現象と関わるのは、あまり無いパターンなのでとても印象に残りました。
確かに主体的な主人公でしたよね。
タイトルいいですよね。アイドルの歌にあったらいい曲っぽそう。
……
……
え、そうでもないですか?
いや、そういうことではないんですが!
アイドルの歌にあったらとか想像してなかったので(笑)
同意してよ!(笑)
ネイルって題材が今風な感じがしていいですよね。読後感も良かったし。
キャラクターがとても生き生きしてましたよね。みんなエネルギーが合って親しみやすかったです。特に主人公が魅力的です。
ちょっと朝ドラヒロインっぽいですよね。
主人公が自分のためじゃなく誰かを助けるために動いているからですね。
それと主人公の逆転の発想が良かったです。とても鮮やかでした。
僕は作品自体がとても瑞々しく感じました。文章も、主人公の性格も。少しやさぐれた若々しさもリアルで共感があります。受賞作のなかで言ったら、ティーンエイジャーが一番楽しめるのはこの作品なのかもしれないと思いましたね。
『幻島』
作:霜月透子さん
凄く不思議なお話でした。途中まではちょっと変だけど、普通の田舎の島の話だと思っていました。所々に変わったルールがあって、島なのに住民が船を持って無いとか海で泳いではいけないとか。そういう謎ポイントがありつつも、のどかな情景が続いて。
その世界が観光船が出航する事によって一変する。
世界が反転してゾワッとする感じが良かったです。
読み返してみると、「じいちゃんはいつまでも僕を小さな子供のように扱う。」という一文があって、これは亡くなっているので年を取らないという事なのか、と思いました。
あと、ラストの船が島についてからの描写が、凄く靄の中にいるようで、判然としない。本当に生きている世界に戻って来たのか、実はここも死の世界なのではないか、という不思議な描き方で、「はい、生き返りましたよ。おめでとう」とはならない事によって、この終わりの余韻がずっと残っている感じがしました。
霜月さんの作品は第16回坊っちゃん文学賞の『レトルト彼』も17回の『海辺のカプセル』も、生と死の間が凄くシームレスな感覚があって独特な持ち味だなと思いました。
語れることがたくさんある作品なんですよね。幻島の真実に関して予想はしていたんだけど、半分ぐらい読むまでは確証がもてませんでした。そこも面白く読めるポイントでした。
おじいさんが「僕」のこぼしたご飯粒をつまんで口に入れる、という描写がすごく好きです。
物語自体に余白がすごくあって、登場人物たちが「どのように亡くなったのか」想像が膨らんでいきます。
僕は読んだ瞬間に「さすが霜月さんの作品」って思いました。今回、どの受賞作品も作者さんの色が強く出ていると思うんです。『幻島』に関しては、作者の名前がわからない状態で公開されていても僕は霜月さんの作品だ!と当てる自信があります(笑)それぐらい霜月さんの作品のいいところが出ていると思いました。
めっちゃファンじゃん!
もともと霜月さんのショートショートすごく好きなんで(笑)
それに合わせて、『幻島』には作品自体に推理していく楽しさみたいなものがあったんですよね。幻島の実態を探っていく感覚でした。読後感は切なく、余韻が深く広がっていきました。
余談ですが、霜月さんは「海」が出ている作品と相性がいいと思います。
霜月さんの作品はすごく雰囲気がありますよね。言葉ではうまく言えないですけれど、文章から不穏な空気がでてくるんですよね。
小説が始まって三行くらいで景色が霞がかっていくような感じです。技術というか、なんなのか。とにかく作者の強みだと思います。
色々考察が進んで、あーだこーだ読者が言えるのもこの作品のいいところですね。
感想会はまだまだ続く…(後半は次ページへ!)
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