文学フリマ初出店記「本番編 〜全部売れちゃえばいいのに。って零した午後零時〜」
前回の準備編に引き続き、西野夏葉さんに「文学フリマ」に出店した際のエッセイをご寄稿いただきました。
実際に参加した感想はもちろん、会場の様子や作成したフライヤーの写真なども掲載しています。
文学フリマへの参加を検討している方は、ぜひ参考にしてくださいね!
はじめに:前回までのあらすじ
文学フリマ(以下「文フリ」)に一度も足を運んだことがないにもかかわらず、あろうことかその場所に最初から「来場者」ではなく「出店者」として参加するという無謀な計画を立てた西野夏葉(ニシノナツハ)。見よう見まねで本のデザインをしながら、他のweb小説クリエイターからの寄稿を募ってアンソロジー本を作ってみたり、八面六臂の大活躍をしたとかしてないとか以下省略。
さあ、そしてついに本番の日を迎え、ここから波瀾万丈急転直下起承転結唯我独尊な話になっていくというわけで。
……いや、ならんね。でも会場に売り物を送るダンボールには「天地無用」のステッカーを貼ったよ。
前日
今回私が参加した「文学フリマ東京37」は土曜日の開催で、前日は言うまでもなく平日の金曜だったわけだが、意図せずその日は最初から職場の健康診断が入っていた。
ここは勤務先によって判断は分かれるが、私の職場は「健康診断が終わったらその日は出勤しなくていいよ」という神対応をしてくれているとわかり、そのままの勢いで東京へ飛ぶことを決めた。
人生で初めてバリウムを飲み、撮影台の上で技師の監視を受けながらゴロゴロと身体を回転させるという羞恥プレイを味わいながらも、私の頭の中は(明日はうまく行くだろうか)(献本と取り置きの受け取り以外誰も来なかったらどうしよう)(というか西野が男性だと分かったら、数少ない読者はヒグマに出会った時のように後ろへ引いていくのではあるまいか)という不安で埋め尽くされていた。そいつもバリウムと一緒にトイレに流してやりたかったのに、全然取れやしない。
なんとか健康診断を終えたものの、行きの飛行機が悪天候でスペースマウンテンくらい揺れまくったのも不安に拍車をかけ、極めつけは東京に降り立った途端に雨が強くなってきた。連鎖は続く。ちくしょう、こんにゃろう、人でなし、と言いながらホテルで会場に持っていく荷物を整理して、寝た。
というか今考えたらこの行程は無茶がありすぎる。良い子は真似しないでください。たぶん悪い子でも真似するやついないと思うけど。
本番当日
朝
身体からバリウムを出す薬を飲んでいた私は酒も飲まず早々にベッドに入ったので、結果として朝4時半という勤勉学生みたいな時間に目を覚ましてしまった。
今回はキャッシュレス決済を導入するため、iPadに*POSレジアプリを入れており、そこで在庫や現金の管理も一括して行うことにしていた。そのための情報をアプリに入力したり、取り置き予約や献本引き渡しのリストを整理して時間を潰していたが、とうとうそれにも限界が来てしまった。
*端末にPOSレジ機能をもたせるアプリケーション。 商品の売上管理や在庫管理など従来のPOSレジ機能をそのまま持ち運べるようにしたのがPOSレジアプリ
最終的に、出店者受付の開始時間である10:30にはかなり早いものの、会場に向かうことにした。
だらだらJRとモノレールを乗り継いで、9時過ぎに会場の「東京流通センター」に到着。どうせ誰もいねーだろ……とタカをくくっていたのに、いざ最寄り駅を出てみると、これがもう出店者がワンサカいるんですよ……怖いなあ怖いなあ………。
本当にもっとびっくりしたのは一般入場待ちの列も既にできていたこと(一般入場は12時)。しかも振り返るたびにさ……人が増えてるんですよねぇ…………怖いなぁ……。
これがガチ勢か――としみじみ思いながら受付開始を待った。頭の中では自分のブースに着いてからの設営のイメトレを続ける。計算通り、かんぺき~とルンルンしていたら後ろのお兄さんに肩を叩かれ「これ、落としましたよ(ニッコリ)」と受付に必要な入場証を渡された。ポケットに入れていたらいつの間にか落としていたらしい。先が思いやられるスタートである。
10:20頃になると出店者受付の列もかなり長くなっていたためか、10:30になるよりも少し早く受付開始となった。
はやる気持ちを抑えながら自分のブースへ向かう。この時点ですでに緊張レベルは総員戦闘配置レベルの最高潮で、さっきまで頭の中で勤しんでいたイメトレの「イ」の字も役に立てられず、あとから来た隣接出店の文月八千代さん(小説投稿サイトでお知り合いになった友人)に設営スピードを追い越される始末。100円ショップで買った指示棒と定規とクリップを組み合わせて即席ポスタースタンドを拵えたりしたんだけど、大学出たての新社会人くらい安定性がなくて泣いた。
やがて会場に響き渡る「一般入場列が長くなりすぎてヤバいので、10分早めに開けるわ。よろしくな」というアナウンス。
ついにやってきた、約半年かけた準備の集大成。
西野夏葉が(一部のご近所さん以外に)リアルの姿を晒す時がやってきた。
嗚呼今からでもVTuberになりてえ。母さん、4Kの縦置きディスプレイを持ってきなさい。
開場
押し寄せる人の波は、さながら朝のJR新宿駅のようだった。まあ私は朝の新宿駅のラッシュを目にしたことがないというかそもそも東京に住んでないんですけど。
事前に調べた情報通り、来場者はみな目当てのブースに直行している傾向が見えた。キョロキョロしてはいても、それはウインドウショッピングをするためじゃなくて(たぶん「P」列のどっかだからこの中に……)みたいに順を追ってブース番号を確かめているだけ。
ということはこのブースに初の訪問者が訪れるのはいつになることやr
西野さんですか? ◯◯です!
何ッ?!!!?!?!!!?!!!!
はからずも、この説を開場後まもなく自ら立証することとなった。
同じ出店者同士で、取り置きをしてくださっていた方には先に商品を渡したりもしたのだけど「11:50」の一般開場後に私が初めて本を販売したのは「11:59」のこと。そしてこれはあくまで「レジに売上が計上された時間」なので、最初の来場者さんが実際にブースへお越しになられた時間は、これよりもさらに早い。いろいろお話したりしてるからね。
事前の情報宣伝って大事だなあ……としみじみ感じた。普通に交通量調査みたいな顔して座ってるだけじゃ、誰も見向きなんかしないもん。みんな歩くのめっちゃ早いし。
開催中のはなし
その後も次々とお知り合いやフォロワーさんが私のブースを訪れてくださり、直接自分の作った本をお渡しすることができた。それはとても喜ばしく微笑ましき、いと素晴らしき世界だと思うのだけど、ひとつだけ「あー、やっぱそうだよな」と思ったことがあった。
突然だが、実際に生きているリアルの私自身は、生物学上「男性」に分類されることとなる。
しかしながら私は普段、女性が主人公の作品を多く書いているし、パッと耳にしただけではすぐイメージの湧きにくい筆名を使っていることも手伝ってか、多くの方は「西野夏葉」というヘッポコweb小説執筆者のことを「女性」だと思っていたらしい。
事実、隣のブースの文月八千代さんに「西野さんですか?」「アンソロが欲しいんですけど」と話しかけられる来場者さんが非常に多かった。しかしそういった人が現れるたび、文月さんはキャビンアテンダントのような美しい所作で「西野さんはこちらです」と案内してくださっていたのである。
その手が示す先には、わざわざNEW ERAで買ったろくすっぽ被ったことのないハットを被り、胸元にでっかく「ZUTOMAYO」と書かれたライブTシャツを身に着け、青くなった霜降り肉みたいな色のカーゴパンツを穿いた私が呑気に口をモニョモニョさせていたので、多くの方々を驚かせることとなってしまった。別に自分から積極的に性別を言ったりしたことはないのだけど、それは「作品をフラットな気持ちでお読みいただくためには、あまり自分が男だとか女だとか明らかにすべきではないだろう」という考えのもとで、そのようにしていた。
でも、リアルに姿を晒すならどうしてもこうなっちゃうよな。chu、驚かせてごめん。
その後も比較的コンスタントに、もともと取り置き予約をしてくださっていた方や「◯◯さん(=西野のフォロワーの方)におすすめされたので来ました」という方、当日に初めて西野のブースの存在を知った方などにお越しいただき、ラストの1時間以外はあまり暇を持て余すことがなかった。感謝感謝。
なにより、ブースの見本誌を手にとって読んでいただいて、ぱたんと閉じたあと「これください」って言っていただけた時の喜びったらなかったよ。(僕はここに居てもいいんだ……!)って思えた。基本的にはいつも(最低だ……俺……)って思ってるんで。
当日に気づいたこと、思ったこと
ビジュアルは大事だぜ
文フリでは、来場者へ度を超えた呼び込み(客引き)をしたり、無理やりブースに引き留めたりすることが禁止されている。
そのため、大事なのは「来場者が自然と足を止めてブースに来てくれる仕組みづくり」であって、たとえば「本の装丁など、商品自体が魅力的な見た目をしているか」、「お品書きやポスターなどのブース装飾は、通行人の目を引くものであるか」などの点だと思う。
私の場合は「こんにちはー、アンソロジー本や短編集を売ってまーす」「純文学とか創作論とか語らないエッセイを売ってまーす」などとたわけたことをモソモソ呼びかけたり、見本誌を手にとってくださった方にはお品書きとブース紹介を書いたフライヤーを渡したりする程度しかできなかった。というかポスタースタンドは、次回の文学フリマに出ることも決めたので、覚悟を決めてちゃんとしたのを買おう。今回は(これが最初で最後の出店になったら無駄だな)と思って買わなかった。
なにより、隣の文月さんのブースには美しい写真を使ったポスターやフライヤーが置かれていたのだけど、それを目にして「え、この写真可愛いね」と立ち止まる来場者さんが多くいらっしゃったので(見た目って大事だなあ)と痛感した。
あと、出店自体に何らかの統一的なイメージがあるのなら、そのイメージを大事にしたブース装飾をすべし。
私は「真夜書房」という出店名で、夜に関するアンソロジーなどを取り揃えていたから、色は深い紺色とか、夜を思い起こさせるような色合いにしようと考えていたけれど、実際はあれもこれもと付け加えた結果、デザイン重視の結果苦情が殺到して後付けの張り紙がベタベタ貼られた駅の案内板みたいな装飾になってしまった。西野先生の次回出店以降にご期待ください。
仲間で隣接出店しようぜ
今回、私は文月さんから「よかったら一緒に出しませんか」とお声がけいただいた。そのため「隣接出店」の手続きを踏んだことにより、ひとつの長机を文月さんと共有して使用することができた。隣接出店というのは、予め事務局に申請することで、希望の出店者と隣合わせでブース配置をしてくれる仕組みのこと。
1ブースに与えられるスペースは、長机の半分(幅90cm×奥行45cm×高さ70cm。文フリ東京37・第一展示場の場合)。なお、ひとつのサークルでの出店でも2ブースで申し込めば、長机ひとつをまるごと自分の出店だけで使うことができる。
つまり「1ブース出店」かつ「隣接出店をしない」場合は、設営から撤収に至るまでの数時間、まったく知らない人が椅子一脚くらい隔ててずっと隣に座っていることとなる。これは、メンタルがザコフリスビーな私には多分相当なストレスになるだろうな……と思った。出張の時もJRで隣に4時間以上やかましい外国人が座ってきて髪の毛が真っ白になりそうになったけれど、これはあくまで趣味であり、自分のお金を遣って参加するイベントなのだ。
だからこそ、できるだけストレスフリーに気持ちよく売りたいのなら、知り合いを文学フリマの出店者側に引きずり込んで誘って、仲間同士で出店するのがよいと思う。隣が知り合いなら、自分がブースを見て回ったり、食事やトイレで離席したりする際もブースの見張りを頼みやすい。なにより相乗効果でブースに来てくださる人が増える効果も期待できる。絶対私がぼっち参戦だったら心折れてたよ。
椅子が多いとうれしいぜ
基本的には1ブースにつき椅子が1脚与えられる仕組みだが、出店申込時に申請すれば、追加で椅子がもう1脚もらえるようになっていた(※これは会場によって異なる場合がある)。普段から鞄や荷物を地べたに置くことが嫌な私は、荷物置きのために追加椅子を1脚申し込んだのだが、精神衛生上非常によかったなと思う。地べたに置くより取り出しやすいし。
また「ブースの中に入れる人数=与えられた椅子の数」となっているため、もし1ブースで誰かと一緒に店番をするとき、追加椅子を申請していなければルール違反になってしまうので注意(椅子がひとつだけなので、一人がブースに入って、もう一人が出ればOK)。
地道な宣伝が大事なんだぜ
事前に「文フリに出るよ!!日にちはいつだよ!!!売るものはこれでブースはここだよ!!!!来てね!!!!!来い!!!!来てくださいやがれお願いします!!!!!!」という宣伝は早めに打つべき。本番が近づけば近づくほど、同じように出店に関する宣伝は増えていくし、そうなるとどれだけ力いっぱいバットを振ったところで、白球はミットにおさめられてしまうこと必至だ。
だからこそ、渋谷駅の工事で山手線が丸一日止まる時と同じくらい前もって宣伝を打っておきたい。それでも電車の来ないホームに立ってずっと待ってる人間はいるけれど、あとで「もっと早く宣伝すればよかった」と悔やむことほど、悲しい話もない。なにより、誰かが作ってくれたものじゃなく、自分が時間とお金と情熱を注いで作ったものが売れないのはメタメタに心がやられるから。
私はたぶん宣伝tweetがうるさかったと思うけど、みんなはきっと許してくれるだろうなって信じてたよ……(ステージ上でスポットライトを浴びながら)。
誰でも軽率に楽しめるんだぜ
さて、ここまで読んでみて、あなたはどう感じただろうか。
・文フリ楽しそうだな。こうなったら、俺もいっちょ「本気」出しちゃおうかな……。
・ふーん。こいつみたいなテキトーさでも出せるなら、あたしにも出せるかもしんないね。
・そんなこと言ったって…売るものなんかないし……むしろわたしの書いたものに他人がお金を出してくれるはずはもにゅもにゅもにょもにょ
全部総合してお答えします。
ぜひ出店しましょう。
せっかく手間ひまかけて拵えた成果物を、永遠にネットの海に昆布みたく漂わせとくだけなんてもったいない。自主制作とはいえ作品を「本」というカタチに残すだけでもテンションが上がるけれど、しかもそれが誰かの本棚を構成する一部になるなんて、すごくロマンがある。腐らずに書いててよかったなあ、次は何を作ろうかなあ、どんなブースにしようかなあ……ってわくわくする。私は文フリが終わってからずっとそんなことを妄想し続けている。
ちなみに私は買ってくれた人に向かって毎回無意識に手を合わせて拝んでいた。これは誇張じゃなくマジ。愛されるより愛したいってくらいマジ。内心は(アッまたやっちまった!!なんかスピリチュアルな感じになって引かれちゃうよ!!!)って思ってたけど、自然とそうしてたんだからしょうがない。だって嬉しかったんだもの。
なにより、自分の作ったものが売れて、誰かの手に渡る瞬間ってすごく嬉しいですよ。悩むよりも、まずやってみたらよいです。
文フリは毎月同じ場所で開催されているわけではなく、全国ツツウラウラな場所で開催されている。もし自分の住む街の近くで開催されていても、一度出店の機会を逃すと、次のチャンスまでずっとモヤモヤすることになってしまう。
だから、今やろうぜ。
対戦 何卒何卒!!
さいごに
あれもこれも言いたい…と思うと止まらなくて、またもはにぃくんに指定された文字数を大幅にぶっちぎって書いてしまった。ごめんなs痛い痛い痛い痛いその蜂は!!!!強いから!!!!!自然界でも強いやつだから!!!!!!!!!!
私の人生初・文フリ出店は、幸いアンソロジー本は完売、その他の2冊もほぼ売り切るというありがたさ溢れる結果だった。毎回こんな結果にはならないのだろうけど、初めてにしてはまあうまいことやったほうだと思っている。あと売上とか客足以前に、自分のお店を出して「ここはオレの領土だ」と我が物顔でのさばるのもなかなか楽しかったよ。
文フリは出店者自らが「文学だ」と信じるものを扱う展示即売会であり、そこには「これは文学だ」「文学じゃない」とか、品質の基準などは一切ない。誰でも「私の創作を喰らえ!!!!!」と火の玉を投げることができる場所。思っていたよりもよっぽど自由で楽しい場所だった。まあ人はすげー多かったけど
なにより、本来はこうやって気負わず楽しくやるのが「創作」なんだろうな、と基本に立ち返ることができたのも大きかった。そして、自分の書いたものや作ったものを求めてくださる方々がこんなにたくさんいると思うと、もう簡単に「もういいよ筆折るから」みたいなことを言うなんて、できるはずもない。
そうやって「気持ちを新たにする」という意味でも、文フリ出店はすごくいい機会だった。
さて、長らく書き連ねてきた出店記は、今回で大団円を迎えます。
本記事が、あなたにとって何らかの参考になればこれ幸い。
そして、迷っているそこのあなた。
次回は私とご一緒に出店してみま鮮花?
/* end */
※念のため言っておくけど、ステマ記事ではないよ。
※他に聞きたいことあれば、遠慮なく筆者まで訊いてください。
※はにぃくん、予定の2倍くらい書いちゃってごめんなs痛ッ!アッ腫れてきた腫れてきたホラ!!お餅みたいにプクッとなってきた!!!ンァーッ!!!!!
2倍で済んでないんですけど
西野さん、前後編に分けてのエッセイのご寄稿、誠にありがとうございました!
西野さんが文フリで販売した作品はBOOTHでも販売されています。
記事と合わせて、ぜひ確認してみてくださいね!
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