文学フリマ初出店記「準備編 〜名作で埋め尽くして 文フリまで行こうぜ〜」

文フリ準備編アイキャッチ

「文フリ」という言葉を聞いたことがある人も多いのではないでしょうか。

簡単に説明すると、「文フリ」こと「文学フリマ」は、作り手が「自らが〈文学〉と信じるもの」を自らの手で作品を販売する文学作品展示即売会です。

現在、九州〜北海道までの全国8箇所で、年合計9回開催しています。

今回、その文学フリマに初めて参加する西野夏葉さんにエッセイをご寄稿いただきました。

文学フリマに参加したい方、興味がある方はぜひ参考にしてください。

目次

はじめに

西野さんアイコン

 ウェノラボを御覧の皆様(おはようございます/こんにちは/こんばんは/お世話になってます)。
西野夏葉にしのなつはと申します。

 普段は小説投稿サイトに左足で書いた小説作品をアップしたり、脳みそを雑巾みたいに絞って抽出したお話をシチュエーションボイス台本にしたりしている珍獣でございます。いつ「インターネットやめろ」とヤジが飛んでくるかヒヤヒヤしておりますが、悪霊退散悪霊退散、どうぞよろしくお願いします。

 このたび、私が2023年11月11日開催の「文学フリマ東京37」へ初出店するにあたっての体験記を綴らせていただくこととなりました。

 本記事を通じ(こういうイベント憧れるけど、自分みたいな奴が出て良いのかなあ)とお悩みの老若男女の皆様に(コイツでも出られるのに自分が出られないのおかしいだろ!)と思っていただけたなら、それ以上の幸福はありません。

小説を書く理由

本を読むハリネズミ

 紆余曲折を経て自分の車を売ることになり、趣味の中で大きな割合を占めていた「ドライブ」を封じられた私・西野夏葉。

 だからと言って、徐にコーヒー豆に凝り出してみたり、ピラティスに通うようになったりするのではなく、あえて小説を書くことに手を付けた理由は単純明快。文章を書くのが好きだったし、小説を書いたり、それをネットに公開することにはお金がかからなかったからである。

 今も続けられているのはそれが大きいかもしれない。カメラとかゴルフとかそういう金がかかることを趣味にしてたら、今頃は破産者として官報に名前が載ってたんじゃないかな。怪しい街金からのDMがポストからマックフライポテトみたいに無造作にはみ出て……ってこれは何の話なんですかね。

 まあそういう趣味がポリリズムくらい巡り巡って、今回のような事態に至ったのである。

文フリへの参加の決意

 時は2022年春頃に遡る。

 私は人づてにお誘いをいただき「青春アンソロ4 青の号哭」へ参加した。今だから言うけれど、お話をいただいた時は「そもそもアンソロ本って何?」という状態だったのに、概要を聞いて「へいがってん毎度あり」みたく即答をしてしまう自分が時折怖くなる。とりあえず何か書いたらいいんだべさ……というくらいの気持ちで手を挙げた。

 当時は今ほど休みを気楽にとれる環境になくて「青の号哭」が頒布された当時の文学フリマ(以下「文フリ」にします。長いので)に参加することは叶わなかった。

 それでも漠然と(自分で本を作るのも楽しそうだなあ)(文フリもなんかあれでしょ。学校祭の模擬店みたいな雰囲気で面白いんでない? 知らんけど)などと、一口含んだだけで歯が全部溶解しそうな甘ったるい妄想を抱いていた。

 しかしそこは「北のワープア珍獣」を自称する私。当時は今より輪をかけてワープアだったのは事実であり、そこにライブ遠征だの円盤購入だのの費用を計上すると、そもそも本を作る金の余裕なんかどこにもなかった。あと普段タイムライン上で東奔西走前方不注意な振る舞いばかりしている私も、実物は所詮ノミの心臓で、どのツラ下げて「あ、西野です……ウィッス……」なんて言えるんだ、と鏡を睨みつける日々を送っていた。

 その約一年後、私は「文学フリマ東京37」への参加申込ボタンを力強くクリックしていたわけで。

 ほんと世の中わからないなあと思うわけで。いくらなんでも今年は富良野だって暑かったわけで。夏なんか嫌いだ。冬を越えられずに青春を謳歌できなかった奴がその先の季節を好きになるわけないじゃないですか。

参加しようと思えたきっかけ

 ここで若干話は逸れてしまうが、私が大学生の頃にお世話になった、とある大人の言葉を紹介したい。

「やりたいと思った今のうちにやらなくていいのか? 今やらないと、次までチャンス来ないんだぞ。」

 普段は下手をすると当時学生だった私よりもふざけていることの多かったその人が言ったこのフレーズが、私の中で今もずっと色濃く残っている。画面の焼き付いたブラウン管テレビくらい。今の人って「ブラウン管」って言ってすぐにピンと来るんですかね。こういう言葉の端々をつかまえられて歳の差を感じられてもそれはそれで困……あっダメですね蜂賀さんがギチギチにスズメバチが詰まった巣箱の蓋を開けようとしているのでこの辺にします。

 まあ、きっかけなんていうのはそんな大層なものではなくて、ちょうどTwitterのタイムラインが「文学フリマ東京36」(2023/5/21開催)の参加ツイートで盛り上がっていた頃。なんの気なしに公式ページを見てみたら、ちょうど「文学フリマ東京37」の申込受付中。しかも「先着1600ブースは抽選ナシで必ず出店できる」と書かれている。

心の声

11月かー。まだ休み取れるというか今の職場なら余裕……
※私は今年の4月に転職した

心の声

自己満足みたいなもんだし、刷ってほんの少しでも売れたら嬉しいだろうな。書き続けるモチベになりそう

心の声

いやいや、いいのか? 醜い生き身の体を晒したことでせっかく創り上げた「西野夏葉」のイメージが崩壊するのでは……

心の声

でも出たい。他人に売り子を任せるなら自分の中では「出た」ってことにならないし、自分で作ったものは自分で売りたい。TOKIOもそんな感じの歌を唄ってたじゃんね

心の声

いやいやいや。それならもう少し見た目を改善しないと。せめて顎のあたりを職場の引き出しに入っているカッターでザクザクザクグフッと……

 みたいにすごい勢いであっち行ったりこっち行ったりウロウロとした。気持ちが。

 ものすごい難手術が行われている手術室の前でソワソワする家族ぐらいウロウロした。

 だってどっちかを選んだ結果、これまで培ってきた「西野夏葉」という人格が死ぬかもしれないんだもの。漫画とかドラマならそうそう死なないけど、今回は死ぬ確率のほうが上回ってそうだし。あーちくしょう誰だよ私にこんな感情を植え付けたの……みたく、青い春に溺れきった女子高生みたいなことを脳内で宣ったとき、エコーがかかって響いてきたのが冒頭の「今やらないと〜」という言葉だった。

 まあいっかこれでリアルの西野に幻滅して誰も読まなくなったら筆名変えてイチからやり直しだ、この国の政治家たちが政党名でよくやる手法じゃないか……と、最終的には非常にラフな気持ちで参加申込を済ませた。

 向こう数ヶ月間続く、時に華やかで、基本は地味な宴の幕開けだった。

参加に向けた準備

アンケート機能の写真

なにつくろう

 申し込みは済んだものの「いくらで」「どのくらい」という以前に「そもそも何を作って売るのか」「むしろ本ってどうやって作んの?」ということを一切考えていなかった私だが、そんな時に役に立ったのが、Twitterのアンケート機能だった。

アンケート 西野これ作って売れよ
①全部西野の本
②他の人の作品も読ませろ(=アンソロ本)
③どっちでも買うからはよ作れ
④震えて眠れ

 という地獄のような選択肢で意見を募ったところ、僅差で②アンソロ本が①を上回る結果となった。内心では(あーやっぱ私がピンで書いても弱いんだ)と忸怩たる思いではあったものの、すぐに「やったろやないかい」と湿気っていたハートに火がつき、ナゴナゴとした雰囲気漂うTLに「アンソロ本を作る!!!!参加者募集!!!!」という京都のお祭りのような火文字を描くに至ったのである。

 ぶっちゃけた話「どうせ来ないだろうし、イタコみたいにいくつかの人格と文体を降ろすしかない」と思っていたのだけど、蓋を開けてみたら参加申込開始時間から1時間ちょっとで規定の人数に達してしまった。基本的に世界を呪ってばかりの私だが、あの時ばかりは「呪」の部首を「ネ」に変えたね。ほんとありがとうね、みんな大好きだからね、国民年金は忘れずに納めましょう……みたいな。

 まあアンケートまで募ったくせに、結局は目を離した時の3歳児くらい暴れわめく自己顕示欲を抑えられなくて「やっぱ自分だけの本も作るもん」「小説だけじゃなくてエッセイも書くもん」とか脂っこさマシマシになっちゃうんだけど、これもまた人生。

 私はそんな風に、やることない奴がとりあえず大学入ったあと軟式テニス部の門を叩くくらいのノリで作るものを決めたが、まあどうせ自分の時間とお金と才能を費やすのなら、素直に自分がやりたいことをやったほうがいい。カネを出さないやつに口出す資格なんかないよ。好きにやれ。

スケジュールや部数etcをきめよう

 私の場合は「作る」と決めた本のうち、アンソロ本において自分以外の他人を巻き込むことになったので、迷惑をかけないためにも、まずはスケジュールから考えた。

 これは自分一人で本を作る場合でも共通だけれど、絶対防衛線(ここを突破したら印刷が間に合わなくなりそうな日)から遡っていくと、余裕を持ったスケジュールが組みやすいのではないかなあと。私はギリギリで慌ててミスするのが一番嫌だったからかなりバッファを多めに組んだが、絶対多いほうが良い。

 創作って学校の宿題とかと違って、明確な答えがないからこそ長引いてしまいがちだし。

 そうしてスケジュールを決める過程で「どこの印刷所は、いくら払うと何日で仕上がってくるのか?」なども調べることになるので、自分が製本印刷にかけられる金額とにらめっこしながら、どこに製本を頼むかを考えていった。

まだ何も作っていない段階だとページ数がどの程度になるか想像しにくいかもしれないけれど、そこは自分の本棚にある「好きな本」を参考にしながら決めるといい。

 1ページの中に1行あたり何文字が何行入っているかを考えつつ、自分が過去に書いた作品が何文字だから、そしたらあれで◯ページ分か……と、だいたい見当をつけながら金額を見積もっていく。なお、部数が多くなればなるほど1冊あたりの単価は安くなる。

 まあ、早めに手を付けておけばそこまで窮地に陥ることはない。私はドンブリ勘定すぎたのか、アンソロ本のページ数が当初の見積もりより40ページくらい増えた。会社をニキビより簡単に潰す経営者ってこんな感じなんだと思ったね。でも夜逃げしなかったので、私の勝利です。haha

書きつつ、それ以外のことも意識して進める

 スケジュールを立てたら、あとは書き進めるのみである。

 但し、ストイックに書くことに集中できる人ならよいが、私はいかんせん集中力が続かないダメヒューマンである。書かなきゃ書かなきゃ、となればなるほど出来上がった文章が微塵も口角の上がらないダメダメなものになってしまって、文豪でもないのに「だめだだめだこんなもん!」と紙をクシャクシャにする代わりにエディタを真っ白にしてしまう。

 だからそこを割り切って「書けないなら、書く以外に切り替えればいいじゃない」という精神に切り替えた。これは別に「この程度も書けないのか。お前もう船降りろ」って意味ではなくて「気分転換になって準備も進んでバッチグーですよ」という意味。ウェノラボを見ている方々っていうのは、だいたいはご自分でも何らかの創作をされている方だと思うので、敢えて説明することでもないとは思うのですけど、書いてばっかいると疲れるじゃないですか。

 私は、あー煮詰まったなあ何も思いつかねえや……とスマホを取り出すよりも、他のことをやろうと決めていた。たとえば中扉とか奥付、表紙まわりの作業とか。これが良い気分転換になるので超おすすめ。文字ばっかり書いているとしんどいので、そういうビジュアルに関する作業は「明日は表紙つくろ」とかじゃなく、煮詰まった時の合間にちょこちょこやるといい。

 表紙まわりや中扉など、本文以外の部分は全部「Canva」で作った。

 無料の範囲でも、ある程度のものが作れるのでとても有能なツールだと思う。

 ただ、作り始める前に、印刷所に入稿する時はどのファイル形式で送れば良いのかを調べておいたほうが良い。たとえばブックカバーを作るとしても、印刷所によって入稿ファイルがPNGだったりPDFだったり全然違っているから、事前によく調べないと、お店のレジで「結局この店は『何ペイ』に対応してるんだ!!!!!」ってブチギレてるご老人の気持ちを味わうことになる。

西野さんが作成した本の表紙
作成した本の表紙

 書くのは、まあ、ね……頑張りましょう。それしか言えんもんな。

 ちなみに本文ページの作成では「縦式」というアプリを使った。

 誰でも簡単に「お、よく売ってるわこういう本」というレイアウトでページを作ることができるので、たのしい。高名な作家先生になった気分でゲラをチェックして、ひとり悦に浸ることもできるぞ。

宣伝宣伝販促販促販促宣伝宣伝

 書くことと作ることに没頭しすぎると忘れてしまうのが、宣伝だ。よほどネームバリューがある方ならまだしも、私のような四次請け弱小建設会社みたいな無名の存在がイベントで本を一冊でも多く売るためには、宣伝を意識的に打ち続けるしかない。

 まあほら、文フリでなくても、日頃書いているweb小説だってそうじゃないですか。だまって突っ立ってても人が寄ってくるのはモンスターエナジーの無料配布くらいなもんですよ。相手が何を配ってんのか分かんなかったらみんな道を変えるか、なんも映ってないスマホ睨みつけて早足で通り過ぎるのが常ってもんでしょうに。

 さて、文学フリマ公式HPの記載によれば、私の出店した「文学フリマ東京37」の出店数は脅威の「1843出店・2086ブース」。少なくとも東京で行われる文フリでは、来場者はぶらりとウインドウショッピングするより、予め決めておいた目当てのブースに直行する傾向が強いらしく、事前の宣伝が大きく物を言うということはわかっていた。このへんは開かれる地域によって若干異なるらしいので、もし出店することを決めたなら、自分が出店する文フリの地域ではどんな傾向があるのかを調べておくべし。

 まあ、フォロワー諸氏が嫌気差して自分へのフォローを切ったりすることがない程度に宣伝していくとよいのではないだろうか。イベントによっては公式ハッシュタグを付して宣伝することを推奨しているので、出店名は何か、自分が何を売るのか、ブースはどこか(ブース番号は何番か)、などをハッキリカンタン簡潔に。

 私は、まあ……準備編なのにこれだけダラダラと書き連ねている時点で、もう、ネ……あはッあはッ こんなになっちゃった

次回予告

 印刷した本が届き、一冊一冊に職人技でブックカバーを巻いて梱包する西野。売り物その他を事前に会場へ送り「計算通り。かんぺき〜」と調子に乗る西野の前に、文フリ本番前日に受けた健康診断のバリウムが牙を剥く……!

 次回 文学フリマ初出店記「本番編 〜全部売れちゃえばいいのに。って零した午後零時〜」。メトロポリスをかすめて翔べ、ガンダム!

 ……ねえ、はにぃくん。西野に声かけちゃったこと、後悔してないですよね?

はにぃくん

してない、たぶん。

writer

西野夏葉

  • 短編・長編問わず小説や、シチュボ台本を書いています。
  • 「5分でとろける恋物語 ときめきスイート編」(中央公論新社刊)に『掌』収録。
  • 受賞歴に超・妄想コンテスト第99回「〇〇日和」準大賞など、他多数
永遠深夜隊所属
編集:エブリスタ
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