第1回 ちくま800字文学賞佳作「非対面型怪奇モデル」

非対面型怪奇モデル
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第1回 ちくま800字文学賞 佳作

「非対面型怪奇モデル」 作:エビハラ

 2020年某日、夜。郊外の公会堂に集まる人影があった。

 長い黒髪を靡かせ、大きなマスクをした女性の集団は、係員に案内されて順番に公会堂に入っていく。

 会場に設置されたパイプ椅子は、2メートル以上の間隔をあけて並べられていた。ソーシャルディスタンスである。

 席がおおかた埋まったところで、壇上に一人の女性が上がる。

「テステス。えー、本日は全国口裂け女協会主催の『コロナ禍における口裂け女としての在り方説明会』にご参加いただきありがとうございます。では早速お手元のレジュメをご覧ください」

「私、きれい?」という質問から始まり「これでもお〜?」と言いながらマスクを外して裂けた口元を露出する、という口裂け女の王道とも言える驚かせ方は、このコロナ禍において強い指摘を受けていた。

「感染防止の為マスクを外すべきではない」という原則に反しているのである。

 それに変わる方法を提案する為、とうとう協会は重い腰をあげた。

「アクリル板はどうでしょう」

「いちいち持ち歩くの!?追いかける時の荷物になるじゃない」

「透明なフェイスガードを付けて、内側のマスクだけ外すというのは」

「ものっすごく取りにくいわコレ。一番の決め所でモタモタしたくないわね」

「そもそも、人を驚かせるのって不要不急じゃないですか?やる意味ありますかね」

「人を驚かせるのは私達の存在意義よ!?それを不要不急だなんて……職業差別よ!!」

 議論は紛糾し熾烈を極めた。

 口裂け女業界も時代と共に浮き沈みはあったが、このコロナ禍において大きな環境の変化を求められていることはもはや疑いようもなかった。

「あれ、サケイさんテレワークの時もマスクしてるんだね。外しても大丈夫だよ」

 会社のビデオ会議。画面の片隅にいる黒髪の女性が大きなマスクをつけたままだったので声をかけた。

 こんな社員いたっけな?と思うと同時に、何だか嫌な気配がした。

「それでは遠慮なく……これでもおおおお!?」


挿絵:千曲市 屋代中学校 美術部の皆さん

作者

エビハラ@momozenoa

ホラーとファンタジーを愛する文字書きです。
小説のようなものを書き始めてから十年以上、最近ようやく長編にもチャレンジを始めました。
ショートショートは楽しみながら書かせてもらっています。

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