活躍する3名のショートショート作家に聞く「ショートショートの作り方」
ショートショートってどうやって書くのだろう?
活躍されている作家さんはどうやってアイディアを出しているのだろう?
そんなことを考えたことはありませんか。
今回の記事では、活躍する3名のショートショート作家「塚田浩司さん」「霜月透子さん」「石原三日月さん」にお話を伺ってみました。
3名の作家様にした質問は同じものですが、返ってきた答えや思いには違いがあります。
物語を創るヒントを得られる記事となりました。
ぜひ、参考にしてください。
本日は、よろしくお願いします!
塚田浩司さん
1983年長野県千曲市生まれ。長野県千曲市「柏屋料理店」の七代目当主。第15回坊っちゃん文学賞を「オトナバー」で大賞受賞。第二回ステキブンゲイ大賞受賞。『5分後に意外な結末』などに作品収録。短編映画「俺の海」の原作を執筆。初の単著となる「コイのレシピ」が2022年10月5日に発売予定。
塚田浩司:Twitter
ショートショートでは、プロットを作らない
ショートショートはどうやって書いていますか?
(塚田浩司さん)
生活する中で、アイデアが降ってきたらiPhoneにメモをします。
ショートショートにかぎってはプロットは作りません。キックオフしてすぐにゴールです。
そのくらいの勢いがあった時は良い作品が出来上がります。
物語の発想方法、アイディアはどうやって出していますか?
先ほどの回答と重複しますが、自然に降ってきたアイデアをメモして膨らませます。
これが自分的にはベストです。
マジカルバナナで、あえて逆をつく。
アイディアが浮かばないときはどうしますか?
アイデアが沸かなければ書きません。
といいつつ、連載もしているのでアイデアが降ってこなくても書かなければなりません。
そういう時は、テーマを決めます。例えば「クリスマス」とか「夏祭り」みたいに。季節ものが多いかもしれません。
テーマが決まったら、マジカルバナナ(連想ゲーム)をします。
クリスマスと言ったらプレゼント。プレゼントと言ったら、もらえない。もらえないと言ったら、悲しい。みたいに。
プレゼントのあとに「もらえない」としたのがミソで、あえて逆をつきます。プレゼントをもらっただけでは日記になってしまいますが、もらえないとストーリーが生まれます。
連想ゲームをしながら、ただの良い話にならないように気をつけて書きますが、それでもありきたりな作品が出来上がってしまったら、ラストの方でひっくり返すのも僕のやり方です。ドンデン返しです。
この書き方を実践したのが、夢三十夜に掲載されている「名曲誕生秘話」とステキブンゲイにアップしている「レッツトラベル」です。
ショートショートに育ててもらい、長編を書く力が身についた
塚田さんにとってショートショートとはなんでしょうか?
恩師です。
ショートショートで認めてもらうことができたので、いまだに創作を続けられています。
ショートショートに育ててもらい、長編を書く力が身についたと思っています。
今後は長編がメインになりますが、いつかショートショートの単著を出したいです。
それが恩師への恩返しになればと思います。
小説を書いていて一番嬉しかったことをお聞かせください
コンテストで受賞するなど、結果が出た時に嬉しいのはもちろん、読者様から「面白かった」と言っていただけると嬉しいです。
小説はひとり孤独な作業なので、他者に認めてもらえると非常に励みになります。
塚田さんのおすすめ作品
塚田さんのおすすめの作品を教えてください!
手前味噌なのですが、オトナバーです。
プロアマ問わず多くの方に褒めていただけた作品で、自分の代表作。当然思い入れがあります。
自分の中からはもうこれ以上のショートショート作品は出てこないだろうなと思うほど、出来に満足しています。
自作以外の話をさせていただくと、最近読んだ作品で、吉澤亮馬さんの海焼が凄く良かったです。
何が素晴らしいかと言うと、ショートショートなのに「人間」の「物語」を読ませてもらえたからです。
ショートショートというと文字制限の問題もあり、人間を書くというよりはアイデア勝負なところがあります。
アイデア勝負になると、仮に驚きがあったとしても一度読めば十分ですし、心に残りづらい。
しかし、海焼は、主人公の心のざわつきや、葛藤が丁寧に描かれていて、ショートショートの枠に収まらない深みを感じました。
僕自身、ショートショートであっても斬新なアイデアだけではなく、きちんと人物の背景や想いであったり、何かしらのメッセージを物語に宿したいと思っています。
その点から海焼は自分の理想に最も近い作品だと思いました。ぶっちゃけ嫉妬しました。
塚田さん、貴重なお話を聞かせていただきありがとうございます!
『オトナバー』
第15回坊っちゃん文学賞ショートショート部門大賞作品。
松山市ホームページで読めるほか、「夢三十夜(学研プラス)」にも収録されている。
『名曲誕生秘話』
「夢三十夜(学研プラス)」収録の書き下ろし作品。
『レッツトラベル』
ステキブンゲイにて公開中のリアルな青春を描いたショートショート作品。
霜月透子さん
第16回・第17回坊っちゃん文学賞にて佳作を受賞。『恋テロ』(富士見L文庫)に短編小説が収録。『夢三十夜』にショートショートが4編収録。『5分後に意外な結末』シリーズ5冊に計8編ショートショートが収録されている。
霜こもり月:プロフィールサイト
霜月透子:Twitter
タイトルが書いていく上での背骨になる
ショートショートはどうやって書いていますか?
(霜月透子さん)
使用ツールは自由帳、ポメラ、パソコンです。
まずは自由帳(罫線のない無地のノート)に設定、アイテム、セリフ、言い回しなど思いついたことをなんでもメモしていきます。
出尽くしたところで全体の構成や流れを整え、人称や文体などを含めたプロットを立てます。タイトルもこの時点で決めます。
私の場合、タイトルが書いていく上での背骨になるので、タイトルが決まるまでは本文を書き始めません。
ポメラで初稿を書き、パソコンで推敲をします。だいたいプロットとは変わっていきますが、プロットあってこその次の変化なので、プロットは欠かせません。
ジャンル・読後感を先に決める
物語の発想方法、アイディアはどうやって出していますか?
軸となるアイデアの前に、ジャンルや読後感を先に決めます。
コメディなのかホラーなのかヒューマンドラマなのか。
すっきりした気分になるのか、余韻が残るのか、後味がいいのか悪いのか。
それからそこに至るのに必要な設定を考えます。
するとそこにいるべき人物が見えてきます。
誰の視点で進めるのが効果的なのかが決まると、カメラに映っていた物語の解像度が上がっていって全体像が固まります。
アイディアが浮かばないときはどうしますか?
ショートショートを書く前はひたすらショートショートを読みます。
他のジャンルを書くときでもそうですが、頭や気持ちをそのジャンルのモードにするところから始めないとまったく思い浮かばないので。
よく、書くものと似た小説を読むと影響を受けるから執筆中は読まないという話を聞きますが、私は積極的に読む方です。
ショートショートは、大人の童話
霜月さんにとってショートショートとはなんでしょうか?
大人の童話です。
幼いころの空想の世界のような自由がありつつ、大人向けなので文体や構成にもこだわることができるところは、大人の童話と呼ぶのがふさわしいと感じています。
小説を書いていて一番嬉しかったことをお聞かせください
「一番」とは難しい質問ですね……。
小説を書いていなければ出会えなかった人たちと出会えたこと。
自分のことを少しは認められるようになったこと。
新井素子先生にお会いできたこと。 (同率一位が山のようにあります……すみません……)
霜月さんのおすすめ作品
霜月さんのおすすめの作品を教えてください!
自作では『夢三十夜』に収録されている『見なかったことに』です。
他の方の作品ですと『抱卵』に収録されている堀真潮さんの「芽吹きの里」です。
ショートショートが苦手だった
余談になり、回答からは外れてしまうのですが「ショートショートは大人の童話」という部分に関しては思い入れがあるので聞いていただけると嬉しいです。
各所で話していますが、私はショートショートが苦手で、ほとんど読んできませんでした。
お手軽な公募だと思って書き始めたのですが、ショートショート大賞優秀賞受賞後も掌編とショートショートの違いが長らくわかりませんでした。
田丸さんが常々おっしゃっている「短くて不思議な物語」「アイデアがあって、それを活かした印象的な結末のある物語」という特徴を頭では理解していても感覚的に掴めないもどかしさを抱えていました。
そのため、読んでも書いてもそれがショートショートなのかそうでないのかわからず、キノブックスのWEB連載時にはかなり苦労しました。
そんな時、気づきがあったのは田丸さんのこちらのエッセイです。
特に下記の部分を読んだ瞬間に得た、たちまち霧が晴れていく感覚を鮮やかに覚えています。
この要素、何かに似ていやしないだろうか。そう、まさしく童話だ。童話とSSは、とても近しい位置にあるのである。
二次創作とぼく――『おとぎカンパニー』著者新刊エッセイ 田丸雅智
ご存知かもしれませんが、私は2014年から童話企画を主催しています。
なので、ショートショートがなんたるかはわからなくても、童話なら自分なりの感覚を持っています。
この言葉に出会った瞬間から「書ける!」と確信できました。
田丸さんはエッセイの中でショートショートを「大人の童話」と表現されたわけではありません。
ただ、私はその言葉がひらめき、そしてこれ以上なくしっくりくる言葉となりました。
ショートショートを書かれている方の多くは、ショートショートを読むことの好きが高じて書き始めたと思うので、私のように「そもそもこれはショートショートなんだろうか?」と悩むことは少ないかもしれません。
けれどももし、私の経験をこちらにお伝えしておけば、必要な誰かに届くことがあるかもしれないと思い、お話させていただきました。
霜月さん、貴重なお話を聞かせていただきありがとうございます!
『見なかったことに』
「夢三十夜(学研プラス)」収録の書き下ろし作品。
ひだまり童話館
霜月透子さんが主催する童話企画。小説投稿サイト「小説家になろう」にて、童話の企画立案を行う。
石原三日月さん
第17回坊ちゃん文学賞にて『家の家出』で佳作を受賞。続けて第18回坊っちゃん文学賞でも『どっちつかズ』で佳作を受賞。学研プラス『夢三十夜』に作品が収録されている。石原美か子名義で劇作家としても活動している。
石原三日月:Twitter
二日間で叩き台を作って、その後の二日間で推敲をする
ショートショートはどうやって書いていますか?
(石原三日月さん)
ショートショートでは簡単なプロットを作っています。
基本的にはワードですが、ワードは箱書きを扱いにくい(簡単に前後を入れ替えたりできない)ので、いろいろ探しているところです。
小説専用エディタツール「Nola」のプロット機能を利用したり、霜月さんに薦められて、OneNoteを試してみたりしているところです。
四千字程度までのショートショートだと、だいたい二日間で叩き台を作って、その後の二日間で推敲して完成させる感じです。
私はたいてい書きすぎる(字数をオーバーしてしまう)ので、書いているのよりも削っている時間のほうが長いと思います。
百字削るつもりで修正していたはずなのに三百字増えてる!?とか、しょっちゅうです。
アイディアの断片をストックしておく
物語の発想方法、アイディアはどうやって出していますか?
普段から気になる言葉とか、ふと思いついた設定といった、アイデアの断片的なやつをストックしています。
作品を書く時はその中から探して、規定の文字数で書ききれそう&自分の中で何か引っ掛かりのあるものを取り上げます。
なので、ゼロからアイデア出しをして書くことはないです。
あとは、たまーに家族とか友人に軽く質問してみたりとかもします。
『夢三十夜』(坊ちゃん文学賞受賞作品集)に収録されている『上昇志向サーバー』という作品は、蛇口から「上昇志向」が出る装置の話なのですが、最初は蛇口から出て来るのは「夏休み」にしようと思っていました。
が、上手くまとめることができなくて、軽い気持ちで知り合いに「蛇口から何が出て来たら嬉しい?」と訊いたら、「うーん・・・・・・やる気?」という答えが返ってきて。
休みを出そうとしていた私と真逆じゃん! と可笑しくなったので、そこから発想を広げていくことができました。
ちゃんと寝ていないと奇抜な発想は出て来ない
アイディアが浮かばないときはどうしますか?
前述した通り、溜めてあるアイデアを使うので、浮かばなくて困るということはないです。
反対に言うと、浮かばないのが怖いから普段から溜めています。
ただ、そのアイデアが上手く物語にはまらないとか、あとひとつ何かパーツが足らないとか、そういう理由で筆が止まることはよくあります。
書けなくなった時は、私は視界になるべく小説や文章を入れないようにして、書店の絵本コーナーとか、写真集のコーナーをウロウロしたり、まったく興味のない分野の雑誌を覗いたり、さっぱりわからない学術書の表紙を眺めて回ったりします。
そうやって、脳の中の言語を扱う箇所を一旦冷やすという感じでしょうか。
書店すら行く気にならない時は、海が比較的近いので砂浜でぼんやりと波を見たり、ペットショップでウーパールーパーを見つめたりしています。
意識的に考えてなくても、頭のどこかではずっと作品のことを考えているらしく、不意に「あっこれだ」という何かが閃いたり、繋がらなかったものが繋がったりします。
ウーパールーパーを眺めても駄目だった時は、もう寝ます。
「ちゃんと寝ていないと奇抜な発想は出て来ない」というのが、私の持論でもあります。
削って削って、最短距離の言葉を置いていく
石原さんにとってショートショートとはなんでしょうか?
「よくわからないまま手を出したら、周りから褒めてもらえることが多くて、嬉しいけれど戸惑っているもの」です。
恥ずかしながら、最初に坊っちゃん文学賞に応募した時はショートショートのことをまったく知りませんでした。
ぼんやりと「短編小説のすごく短いやつ」くらいの認識で、こんなに確立されたジャンルだとはまったく知らなかったです。
最終候補の連絡が来てから、慌てて田丸先生の本を取り寄せたくらいです。
ただ、これはあくまで個人的な見解ですが・・・・・私はずっと演劇の脚本を書いていたのですが、戯曲(シナリオ)とショートショートは似ているところがあるような気がしています。
それは「削って削って、最短距離の言葉を置いていく」という感覚です。
イメージとしては「大きな池に並んだ飛び石」でしょうか。
誰もが難なく渡れる間隔で、ただし最少の数で済むように飛び石を置いていく作業というか……戯曲を書く時も、ショートショートを書く時も、私はそういう感覚になります。うーん、伝わるといいのですが。
なので、私がショートショートで評価して頂けているのは、おそらく戯曲で培った貯金があったためだろうと思っています。
その貯金もそろそろ尽きそうなので、さてどうしようかなぁと考えているところです。
小説を書いていて一番嬉しかったことをお聞かせください
戯曲がだいぶ前に本になったこともあるのですが(すでに絶版)、戯曲は演劇をやっている人以外はまず読まないものです。
なので、『夢三十夜』が刊行された時も、身内や知人友人に宣伝しつつも「まぁ読んでくれる人がいたらラッキー」くらいに思っていたのですが、予想外に「買ったよ!読んだよ!」という連絡が次々に来て驚きましたし、感動しました。
あまり本を読まない高齢の母が読んでくれたのも嬉しかったです。
ただ「ほかの人の話はわかったけど、あんたの話だけよくわかんなかった」と言われましたが。
それから、坊っちゃん文学賞で佳作を頂いてから、SNS等で小説を書いている方々と繋がることができて、とてもありがたいことだなぁと思っています。
会ったこともない方々が自分の作品を面白がってくれているのは嬉しいですし、そのために書いているようなものなのですし。
どこかの誰かをクスッとさせたり、「この人あいかわらず変なこと書いてるなぁ」と笑ってもらえれば、作家冥利に尽きます。
石原さんのおすすめ作品
石原さんのおすすめの作品を教えてください!
自分で好きなのは、やはり『家の家出』(第17回坊っちゃん文学賞佳作)でしょうか。
一番最初に書いたショートショートなので、拙い部分もありますが、素直に書けたような気がしています。
モクは執筆時に飼っていた老犬がモデルなのですが、すでに老衰で亡くなったので、この時に書いておいて良かったなと思います。
Web Novel Laboをご覧の方々はきっと小説はたくさん読まれていることと思いますので、私からは絵本と画集をお薦めします。
まず、絵本作家 junaida氏の『怪物園』と『街どろぼう』。
繊細で幻想的な絵はもちろん、その世界観が本当に素晴らしいです。
怪物や巨人といった異質な存在を、人間たちがそこそこ怖れながらも、そこそこ受け入れている、その距離感が絶妙で大好きです。
それから、もの久保氏の画集『ねなしがみ』。
圧倒的な画力で、異形の訪れた山村が描かれています。
子供の頃にだけ見えたものをまた見せてもらったような感覚になります。
ほとんど文字はありませんが、一枚一枚の絵に強い物語性があって想像力を掻き立てられます。
たぶん私は「とくに敵意も好意もない異質なものたちが、たまたまちょっと人間とすれ違って、良くも悪くも関わってしまう。でもまた通り過ぎていく」というのが好きなのでしょうね。
自分でもそういう世界を描いていけたらと思います。
石原さん、貴重なお話を聞かせていただきありがとうございました!
『上昇志向サーバー』
「夢三十夜(学研プラス)」収録の書き下ろし作品。
『家の家出』
第17回坊っちゃん文学賞・佳作受賞作品。
松山市ホームページで読めるほか、「夢三十夜(学研プラス)」にも収録されている。
創作のヒントは見つけられましたか?
今回の記事ではショートショートの世界で活躍している3名の作家様から貴重なお話を聞くことができました。
それぞれの創作方法があり、そのどれもが興味深く参考になるお話でした。
また、創作方法を知ってからお三方の作品を読んでみると、より深い学びがあると思います。
「塚田浩司さん」「霜月透子さん」「石原三日月さん」記事にご協力いただき、本当にありがとうございました!
お知らせ
Web Novel Laboでは、今後も作家の創作方法や創作に関わる体験を記事にしていきます。
書籍化された作者様、作品がメディアミックスした作者様、その他様々なクリエイターに取材し、書く人にも読む人にも面白い読み物を提供していきます。
10月にはその第1弾の記事を公開予定です。お楽しみに!
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!!
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