ひなた短編文学賞~創設の理由と求める作品~【矢島隆生さん、塚田浩司さん対談】

ひなた短編文学賞対談

長野県千曲市のシャツメーカー・フレックスジャパンが主催する『ひなた短編文学賞』

「生まれ変わる」をテーマにしたショートストーリーを全国から募集します。

今回、フレックスジャパン代表の矢島隆生さん、そして『ひなた短編文学賞』をプロデュースする小説家の塚田浩司さんのお二人に対談いただきました。

目次

有名作品ともコラボするメンズアパレル

――本日はよろしくお願いいたします。フレックスジャパンがどんな企業なのかを簡単に説明していただいてもよろしいでしょうか?

矢島:私どもの会社『フレックスジャパン』は、メンズアパレルの会社です。メンズアパレルの会社ではありますが、女性用のビジネスシャツも手がけております。

塚田:地元の人間(長野県千曲市)からすると、とにかくシャツのイメージがあって、親しみのある会社です。私が今着ているシャツもフレックスさんのなんですけど(笑)

矢島:ありがとうございます(笑)

塚田:今回、一緒に文学賞を開催させてもらうことになって、フレックスさんのことを改めて調べてみたんです。人気アニメとのコラボもされていて驚きました。しかもどの作品も超がつくほどの人気作品なんですよね。応募者の方も、フレックスさんがこの人気作品とコラボしていると知ったら驚くんじゃないかと。

矢島:そうなると嬉しいですね。今、アニメや漫画というのものは日本の文化になっています。そういう作品とコラボレーションできるのは楽しいことです。やりたいと思う社員がいるんであれば私としては、「やってちょうだい」とGOサインを出しています。

――本当に有名な作品ばかりです。地元の企業が自分の好きな作品とコラボしていたら、嬉しいですね。

ひなた工房は、思い出に寄り添う事業

矢島社長

――そのなかで、今回新事業として福島県双葉町に「ひなた工房」を開業するとのことなんですが、どのような事業なんでしょうか?

矢島:衣料品をリメイクする事業です。さまざまな「思い出」に寄り添いながら、その再生をお手伝いする工房となります。衣料品をやっている立場から話すと、やはり肌身に付けていただくものですから……お召しになった方のいろいろな思いが服には沁み込んでいると私は思っているんです。ところがものである以上、いつかは破れたり擦り切れたりして、着られなくなる。着られなくなったときに、捨てるのが忍びないなって方もいるんじゃないかな? 私自身もそうなんですけれど。それは切ないですし、捨てられる物のことを考えても可哀想だな、と。

なので、そこに新しい命を吹き込むようなことができないかな、と考えておりました。そのとき、たまたま双葉町に伺う機会があったんです。双葉町がどういう町かを話すと、福島第一原発のある町です。東日本大震災、それに引き続いて起こった原発事故の被災地。

被災地というのは双葉町に限らないんですけれども、最後まで避難指示が解除されなかったのが双葉町なんですね。一番最後に、ようやく再生に乗り出すことができた町。その双葉町に行ったときに、着られなくなった服や、あるいはお父さんお母さんが亡くなって、残された遺品の服をどうしようって、思われる方がいたとして……。そういうものをですね、違う形に再生するんだったらこれ以上いい町はないと思いました。そして、この事業をスタートさせることに決めました。

塚田:双葉町は去年避難解除されたばかりなんですよね。あの震災から10年以上経っていて、正直震災への意識が薄れかけている部分もありました。そのときに双葉町のことを知ることができて良かったです。この『ひなた短編文学賞』をきっかけに、たくさんの人に双葉町のことを知っていただけたらいいな、と思います。

矢島双葉町は再生の象徴の町です。そのような町であれば、衣料品を再生する事業も立ち上げることができるんじゃないかと、事業計画を進めるに至りました。私たちがやりたいのは「物の再生」だけじゃありません。その服にまつわる人たちの「思い出を再生」したい。そのことによって、精神的な喜び、癒しを感じてもらえたら嬉しいです。

事業のメッセージ性を伝えたい

塚田浩司さん

――『ひなた短編文学賞』を創設するきっかけはあったんでしょうか?

塚田:私、去年はちくま800字文学賞というものをやっていたのですが「今年は去年よりもっと大きくやりたいな」と考えて、試行錯誤していたんです。そのことを西沢書店の柳沢さんに愚痴ろうと思って行ったらですね、柳沢さんが「これから矢島社長が来るよ」って言ってくれて。それで矢島社長とカフェでお茶したんです。それが文学賞を一緒に開催するきっかけになりました。

矢島:実はお話する前からショートストーリーを集めたいと思っていたんですよ。私どもが双葉町でする事業というのはあくまでも事業ではあるのですが、同時にメッセージ性のあるものだと思っています。そのメッセージ性というものを発信しなければ事業として成功しない。メッセージ性を感じてもらって、みなさんにひなた工房を使っていただき、我々は仕事にしたい。ただ、事業所の立場からメッセージを発信しても、伝わらないですよね。

なので、私どもが双葉町でやりたい事業自体をテーマにしたショートストーリーを読んでもらうのがいいかな、と。

塚田:あの時点でそこまで考えていたんですね。

矢島:はい。だけど、ショートストーリーを集めるのが難しい。そう悩んでいたときに、ちくま未来新聞さんを通じて塚田さんのことを知ったんです。それで塚田さんが受賞して出版された『コイのレシピ』もすぐに読みましてね。それで相談しようと思っていた矢先に出会ったので、こっちは驚いちゃったわけですよ(笑)

塚田:お互い考えていることが同じで、偶然同じ時間にいて、あれがなかったらもしかしたらこういう形になっていなかった。なるべくしてなったというか。

そして話し合いをして、僕もフレックスさんのサイトを見ました。「こういうことをやりたいのか」っていうのは何となく掴めたんです。加えて、双葉町の説明も聞いたらすぐに物語は浮かんできたんですよ。なので、会った翌朝にすぐに例の小説を送ってしまいました(笑)

矢島:作品を読んで、塚田さんとうまくやっていけると思いました。ショートストーリーという形は読みやすい。短いからこそメッセージが凝縮される。私どもがやりたいこと、伝えたいことを世の中の人に伝えるには、ショートストーリー以上に良いツールはないと思っています。

和かふぇ よろづや様よ
「和かふぇ よろづや」にて偶然会ったおふたり

人間でしか感動させられないものを

フレックス・クマ

――ツールといえば、今回の応募要項では、「AIでの執筆は原則禁止」ということになっています。それについてのお考えを聞かせていただいてよろしいでしょうか?

矢島:まず、AIについて否定や拒否をするつもりはありません。最先端のAIを拒否していたら、世の中から取り残されるでしょう。AIなんて使うもんじゃない、とは私は思ってないんです。うまく使えば私たちの生活をより良くしてくれます。今までだったら人間を感動させるものを作るのは、AIが不得意な部分だったと思います。ところが今は絵やイラスト、芸術的なものまで生成してしまう。

塚田:相当なレベルのものあるし、これから技術も上がっていきますよね。

矢島:はい。AIは人間を感動させることすらできるようになるんです。そのなかで「人間で良かったな」という気持ちについて、よく考えていかなきゃならない。人間でしか感動させられないものを、突き詰めていきたい。なので、このひなた文学賞に応募していただける方にも、できればAIではなく自分自身の色んなものを集めてきて、ゼロから生み出すクリエイションとしての投稿をしていただきたいのです。

塚田:「ひなた工房」さんは「思い出の再生」というのをコンセプトにされていますし、そこをAIっていうのは少し違う感じがしますね。AIにはないところは、やっぱり思いの部分というか。

矢島:そのうち、AIも思いを持つようになるかもしれませんが(笑)

矢島代表が求める作品とは?

双葉町

――「生まれ変わる」というテーマはどのようにして出てきたのですか?

塚田:この「生まれ変わる」は矢島さんやスタッフのみなさんとお話しているなかで、急に出てきたんですよね。もともとはその予定じゃなかった。

ひなた工房も「衣料品を生まれ変わらせる」双葉町も、元の町に戻すのではなく「新しい町に作り変える」。そのように語られているので、どちらも「生まれ変わる」がうってつけだと思いました。その考えに、矢島さんも賛同してくださった流れですね。

矢島:自分の頭の中には「生まれ変わる」って言葉がなかったんです。「リメイク」「再生」という言葉に縛られていました。そのなかで塚田さんが「生まれ変わる」という言葉を渡してくれて、良かったです。(当初は“思い出の再生”がテーマだった)

塚田:テーマが浮かんできて良かったです。そうそう、応募者が一番気になる部分を聞きたいです。ずばり、矢島さんはどのような作品を求めますか?

矢島読んで感動するものを求めています。私自身が一体どういうものに感動するのかって言ったら……フィクションなんだけども、ご本人の実体験だったり、自分の思いを素直に書いていただくと、私はより感動するかもしれません。

もちろん、フィクションで感動させることができる才能を持っている方達はいらっしゃると思います。塚田さんはもちろん、小説家の皆さんってそういう人たちだと思います。もし、まだ自分がそこまでの領域に達していないと感じている方は、色々考えるよりも「自分はなにを生まれ変わらせたいか」「どう生まれ変わりたいか」あるいは「実体験」に即したものを書いていただくと良いかと思います。

塚田:絶対にフィクションじゃないといけないというわけでもありませんからね。実体験を小説に仕立ててもいい。矢島さんがさっき言ったことは「フィクションだけど偽物じゃダメ」だってことだと思います。そういう意味では実体験を小説にすることは、そこにリアルが必ずあるわけですから。人を感動させやすいと思います。

…やはり読後感としては明るく、ポジティブな気持ちになれるものを求めたいですよね?

矢島:そうですね。「生まれ変わってこんなことになっちゃった…」みたいなマイナスなものを求めていません。

塚田:ショートショートってバッドエンドの方が物語を作るのが楽なんですよ。刺激的になるし、面白くなりやすい。だけど、応募者からしたら「受賞するためにはどうしたらいいのか」というには気になるだろうし、言っておいた方がいいかと思いました(笑)応募ページの挨拶文や、この対談の記事を読んで、応募者それぞれが感じたことを書いてもらえればな、と思います。

あと、フレックスさんは衣料品の企業なので、衣料品を使ったショートストーリーがあると嬉しいですね。僕が書いた「主人のカーテン」を読んでもらえるとイメージしやすいかも。

矢島:そのような作品にも大いに期待したいです。

――矢島代表、塚田浩司さん、本日は貴重なお話をありがとうございました。

矢島隆生
  • フレックスジャパン(株)代表取締役社長
塚田浩司
  • 第15回坊っちゃん文学賞 大賞
  • 第2回ステキブンゲイ大賞 大賞
  • 著者に「コイのレシピ」(ステキブックス)
  • 5分後に意外な結末シリーズ(Gakken)にショートショート作品多数収録
  • 短編映画「俺の海」原作担当
  • ちくま未来新聞にてショートストーリー連載中
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

five × five =

目次